温室効果ガス(CO2)によって頻繁に起こる自然災害。世界に目を向けると、ブラジルで観測史上最大の干ばつが続いているという。温暖化対策は、もはや地球規模のミッションと言える。2020年、日本は「2050年までにカーボンニュートラル(CO2排出の差し引きゼロ)を実現する」指針を表明。GX(グリーントランスフォーメーション)という、持続可能な社会実現のための産業・社会の改革を意味する言葉が生まれ、事業者を中心にGXの取り組みが求められている。九州という枠組みでも、企業を対象にGXを目的としたカーボンニュートラル普及啓発の一環として講演会などが開かれ、九州域内の企業の取り組みについて話を聞くことができる。一口にGXの取り組みといっても企業によって様々で、企業にとってはいかに情報収集をするかも鍵になりそうだ。鹿児島県は現在、2030年までの目標として再生可能エネルギーの地産地消が展開される社会を目指しており、それにともない、企業の再エネ設備導入の取り組み支援などを行っている。「社会構造の変革って、大きな枠組みの中でやっていかないといけないので、県だけで取り組めるものじゃないんです。」と鹿児島県庁エネルギー対策課の福留大晴さんは話す。そもそもまだGXについて知っている母数が少ない状況では、行政が働きかけて、個々の事業者の意識を変えるところから始める必要があるという。福留さんに、現状についてお話を伺った。県内でGXの取組を浸透させるために、まずは気づきというところから支援をしています。GXという言葉自体に、多くの人がまだなじみがないと思うので、まずGXという言葉が何なのかっていうことを浸透させていきたいと思っています。GXっていうのはどういうことかというと、脱炭素の取り組みを経済成長の機会にするために、産業や経済に絡めて、全体で社会の変革をしていきましょうという取り組みなんです。企業が行う取り組みを行政が支援することで実現に近づくことになると考えています。企業に取り組んでもらうために、まずは講演会や勉強会を開催してGXを学ぶきっかけ作りからスタートして、自社ではどういった取り組みができるだろうかというところを検討していただいています。何かしら働きかけがないと、GXという言葉を知る機会がなかなかないと思いますので、まずは気づきというところから支援をしています。GXについて知っていただいたあとに、「CO2排出量の見える化はこういう風にすればできますよ」ということをお伝えします。また、省エネ・再エネ導入効果を紹介することで、うちも設備を入れたらこれだけCO2をカットできるかもしれない、という気づきの機会になります。そして、設備を導入しようという段階になったら、県の補助金なども紹介しています。実際に再エネ設備の導入をしたいけれど、コスト面で懸念を持たれている企業も多いと思うので、そういったときに国や県の補助金を使ってもらえば、より取り組みやすくなるかと思います。導入後は、じゃあ実際にどんな効果があったのかというところを、導入された企業にヒアリングなどを行い、導入効果を測定します。「この企業は設備を導入することで、これくらいCO2の排出や電気代をカットできましたね」っていうことを、数字として見えるようにする。さらに、その結果を講演会や勉強会で事例紹介することで、また新たな企業の気づきになります。県では一連の流れで事業を組み、切れ目のない支援を行うことで脱炭素化を目指す企業が増えていくように取り組んでいます。資源が沢山あることが、鹿児島県の一つの特徴。非常にエネルギーの地産地消に取り組みやすい県だと思います。県では、2050年に脱炭素社会を実現するという大きな目標を掲げていますが、30年間でどう動くのか、なかなかイメージが湧きづらいところですので、「鹿児島県再生可能エネルギー導入ビジョン2023」では、2050年という最終ゴールに向けて、2030年までに、ここまで取り組んでいきましょうとバックキャスティングで目標を定めています。このなかで三つの基本方針を立てているんですけれども、2030年までに行うべき方針としましては、まず一つ目が、地域の特性を活かした再エネの促進。二つ目が、地域と共生した再エネ導入促進。そして三つ目が、再エネを活用した地域の活性化です。一番目の、特性を生かしたっていうところですけれども、鹿児島県は本土から離島まで含めて非常に広大な県土があって自然環境もとても多様となっています。温泉資源や海洋資源などが色々とあるので、そういった地域の特性を活かした再エネの導入を進めましょうということですね。例えば、指宿で地熱発電をしたり、山林も多いので木材を利用したバイオマスの発電をしたりと、鹿児島にはエネルギー資源がたくさんあることが鹿児島県の一つの特徴です。そういう意味で、鹿児島県は非常に地産地消に取り組みやすい県なのかなと思います。二つ目は、単に設備を入れればいいというわけではなくて、ちゃんと地域との共生というところにも着目しながら、丁寧にやっていきましょうというところ。そして三つ目は、再エネ設備を入れる際に、その地域で産業が生まれて地域の活性に繋がるところにも着目していきましょうと。カーボンニュートラルだけを目指すのではなく、GXの本来の目的に沿って、脱炭素を達成しながらプラスで地域の活性化まで取り組むというところです。LEDへの切り替えや電力プランの見直しなど、取り組み方はさまざま。企業のGXの取り組みは、各社で特色がありますし、取り組み方はさまざまあります。企業が取り組まれているGXへの取り組みで一番わかりやすい例が、新規の設備導入もしくは設備の見直しです。新規導入や設備の更新の際に、今使っているライトをLEDに変えるなど、省エネ設備へ切り替えるというのも、GXという目標を達成するための一つの選択肢です。また、電力プランの見直しもそうです。例えば、電力会社などの、再エネ100%の電気を供給しますといったプランに切り替えていただくことで、自社の再エネ電源比率を高めることができます。こういったことも企業ができる取り組みの一つだと思います。最後に、カーボンクレジットの購入ですね。今、カーボンクレジットの購入をされている企業は多いんじゃないかと思います。自社の取り組みだけではCO2削減には限界があるというときに、市場で出ているカーボンクレジットを購入することによって、カーボンニュートラルを達成することができます。これからの社会のあり方として、GXは非常に重要。ぜひ皆さんに知っていただきたいです。GXっていう言葉自体が新しいものなので、初めて知ったっていう方は本当に多いと思います。政府の方針でも言われていますけど、これからの社会のあり方として、このGXっていうのが非常に重要になってくると思いますので、県内でもGXの取組が浸透すればいいなと思います。行政が取り組む事業などを活用しながら、設備の導入や新たな事業展開に取り組んでみてください。プロフィール紹介福留 大晴さん(鹿児島県商工労働水産部 エネルギー対策課 エネルギー高度化係)【再生可能エネルギー設備導入関連業務】(福留さん)○事業名:再エネ設備と蓄電池を併用した先進的な取組導入支援事業・再エネ設備と蓄電池を併用したマイクログリッド、自己託送、PPA等の先進的取組に対し、設備導入費用を補助することにより、地産地消型再生可能エネルギーの導入促進を図る補助金業務を担当。○事業名:再エネ設備等導入効果測定・フィードバック事業・再エネ設備導入によるCO2排出量・コスト削減等の効果測定を行い、その結果を県内事業者等へフィードバックすることで再エネ設備導入の取組を加速化させる業務を担当。